1 番外

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サノオはヤマタノオロチを倒し、三種の神器となる「草薙の剣(くさなぎの つるぎ)」を、その体内から得たという。
ヤマタノオロチと戦い勝った者こそが「スサノオ」であり、草薙の剣に選ばれる者なのだ。
「念じろ鬼太郎、そうすれば剣はお前の元に来るはず。お前がスサノオノミコトなんだ!」
にわかには信じがたい地獄童子の言葉に、驚く鬼太郎。
しかし、いぶかしむ余裕はなく、他に選べる道もない。
傷だらけの体を引きずって立ち上がり、渾身の力で剣を呼んだ鬼太郎の手の中に、光り輝く大剣が光臨した。
「やはりな…」
女禍を封印したスサノオとアマテラスの力の象徴たる三種の神器。それこそがもう一度女禍を封印しなおすことの出来るアイテムなのだ。
兄弟から力を借りたと言う封印伝説を再現するため、勾玉と鏡を鬼太郎に与える地獄童子と猫娘。
すでに動けないほどの深手を負っていた二人は、女禍に吸収されることを承知で、自分を守る結界の要を手放したのであった。



ひとり取り残された鬼太郎は、剣を手に立ち上がる。
今しも振り下ろそうとしたとき、鬼太郎の目に女禍の体内に閉じ込められた目玉親父が飛び込んできた。
吸収された者たちは、女禍の中でまだ生きていたのだ。
このまま女禍を封印することは、仲間たちを生き埋めにすることに等しい。
愕然とする鬼太郎を、あざ笑う女禍。
「僕にはできない」歯を食いしばる鬼太郎に、仲間たちが女禍の体内から最期の力で励ましを送る。
女禍の復活を食い止めてくれ。ためらうな、鬼太郎…
さざ波のように広がる声、声、声。
その声の中で決然と顔を上げ、ゆっくりと剣を構えなおす鬼太郎。
「父さーん!」
伝説の剣は光の帯となり、女禍の体を貫いた。声もなく地中へと引きずり込まれてゆく巨体。
神話のとおりに甦った神は、神話のとおりに姿を消したのであった。



完全な復活の直前でなされた決断は、思わぬ結果を生んだ。
体内で生きていた者たちが一人残らず還ってきたのだ。
安田によって生贄にされた魂たちも、束縛を解かれあるべき場所へ帰っていく。
あとわずかでも決断が遅かったとしたら…鬼太郎の勇気を讃え、奇跡の生還を喜び合う仲間たち。
「本当にたいした奴だ」
仲間たちにもみくちゃにされながら、泣き出しそうな笑顔の鬼太郎。
命が命を守ろうとする力、信じる力。
命が命のために必死になろうとする力、想いあう力。
神話を超えたのは、大勢の者たちの心の力だったのかもしれない。





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