数ある同人と呼ばれる活動の中でも、ここまでやったのは後にも先にもこれだけだろう。
なにせ、ファンが映画を作っちゃったのだから。
オリジナルは「ゲゲゲの鬼太郎」。カラーテレビ版3代目の彼らがこのダイナビジョンの主人公である。
普通の同人活動が原作者の許可をもらうことはまずないが、作ろうとしたものがモノである。
「女禍」は制作にあたって、まず原作者である水木しげる先生に趣旨を説明し許可を頂き、もちろん完成品も見て頂いた。
作る方も作る方だが、そんな前例のない願いに快く理解を下さった先生はやはり凄いと、改めて思う。



ダイナビジョンとは、普通のアニメーションから動き(動画の部分)を除いたもの。
つまり、セル画の紙芝居と考えると一番近い。
とは言え、効果音も透過光も入るのでずいぶん贅沢な紙芝居と言えるし、カメラワークによって躍動感を出すことも出来る。例え、絵そのものが動かなかったとしても、演出を工夫して説得力のある作品を作ることは可能なのである。
また「女禍」では、ここぞという要所要所は、短いながらも動画を差し挟んだ。
絵が動いてびっくりした、歓声を上げるほど感動したと言うのは、むしろ贅沢な体験かもしれない。



このダイナビジョン作品に出てくる敵役のオリジナルキャラとして、人気大爆発だった「安田精次郎」。通称「精さん」である。
お金持ちのぼんぼん(監督=後の有里談)と設定されていた彼は、遺跡の盗掘にもブランド登山用品をもっていくような品のいい(?)青年であった。
初恋の人を自殺と言う形で亡くしたことをきっかけに緩やかな狂気に蝕まれてゆき、そこが月読命に魅入られた一因になったらしい。
その裏設定が表に表れることはなかったが、人間離れした透明感は、女の子たちのハートをゲットしたようだ。
そんなこんなで大騒ぎされていた彼だが、実際にスクリーンに現れてみたらなぜか「いや〜ん!」と大爆笑を買ってしまった。
最後の生贄となる少女の霊を捕らえようとする、印象的な場面で
「ふふふ…お嬢ちゃん、こっちにおいで…」
精さんがなまじ好青年+少女と言うより幼女だったのがマズかったのかもしれない。
監督が、まだ幼かった子供たちにこのシーンを見せて「知らない人について行っちゃいけませんよ」と教えたことは、実話である。



もう一人の人気大爆発キャラは、「地獄童子」。
テレビ放映に合わせて「月刊コミックボンボン」に連載されていた、水木プロ著「ゲゲゲの鬼太郎」に出演していた彼は、生い立ちも年齢も、自分の名前さえも分からず、閻魔大王の下で地獄で亡者の守護をしている苦労人。
亡者が、逃げたり連れ出されたりして転生のサークルから外れてしまったら連れ戻しに行く、正真正銘「地獄からの使い」である。
鬼太郎よりちょっと大きいくらいの年恰好で描かれていたが、なにせ仕事が仕事。即断即決・即行動に移すストレートさも、クールでシビアな判断力に裏打ちされている。
その外見と中身のギャップが絶妙なバランスを保つ、大変魅力的なキャラであった。
実は、「地獄童子」と言うキャラクターは、水木プロの金田益実氏が提案したものだったが、あまりにもインパクトが強すぎたため、出演を減らされてしまったと言う逸話を持つ。(後に水木プロから独立・平成6年創刊の「月刊コミックMANBOW」の看板作品として、原作・金田益実、作画・森野達也「地獄童子」が連載された)
おかげで出演回数こそ少なかったが、当時のファンの間ではそれはそれは大ブレイクした。
ミニ丈着物の彼を「HAUNTED〜」の朝比奈睦月に見せたらえらいことだったろうと思うが、相当な数のお嬢さんたちが冗談抜きで彼に睦月状態だったことは、記憶に鮮明である。



安田が遺跡から盗掘してきた五色の玉は、「五彩玉(ごさいぎょく)」と呼ばれていた。
これは、中国神話の中に実際に描かれ、女禍が天地修復の材料として使った5色の玉を模したもので、それぞれが地・水・火・風・空の属性の力を持っている。
大きさはちょうどビー球くらいで、安田はこれを一つずつ指の間に挟んで持ち、一度に複数の玉を発動させていた。
この持ち方は、「HAUNTED〜」の遥都に受け継がれている。
遥都が指に挟んだのは7つのバッチだったが、なにせバッチは平べったいもの。これを指のまたに挟むのは本当に大変なんである。
イベントのアトラクションで遥都を演じた役者さんが、指の間に両面テープを貼り付けてバッチと格闘していたことは、実は秘密である。



「女禍」では声優も一般のファンの間から募ったが、猫娘役を夢来鳥ねむ、地獄童子役を水滝彼方(現在の彼方悠璃)が演じていた。高校生と中学生、まさか十余年後にも同じキャスティングで同じ舞台に並ぶとは思っても見なかっただろう。
当時地獄童子の大ファンだった夢来鳥が、「鬼太郎!」と叫ぶべき場面で思わず「地獄童子!」と言ってしまい大目玉をくらったことは、実は秘密である。
他のキャストも大半はファンから集めたが、何人かはプロに演じてもらった。
その中の一人が目玉親父こと田の中勇氏。
あの声を欠いて「鬼太郎」は作れないと、正真正銘のご本人に来て頂いた。
おかげで、史上最っ高にシリアスな目玉親父が出来た。同人作品の醍醐味である。




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